3.10 リニア編集
 3D_New_Technologu_60リニア編集は、ビデオカメラで録画されたりスタジオ収録されたりしたビデオテープに記録された画像と音を選択し、整えて、修正する過程である。1990年代はじめにコンピュータによるノンリニア編集が登場するまでは、リニア編集は単に「ビデオ編集」と呼ばれていた。
・切り貼り
アメリカで最初に広く使われたビデオテープは2インチで、幅が広く毎秒30インチの走行速度であった。ヘッドとテープの相対速度を十分に得るために、4個の映像用記録・再生ヘッドが取り付けられた回転ヘッドが全幅2インチを横切る方向に回転する。(音声トラックと同期トラックは固定ヘッドによりテープの端の部分に長手方向に記録される。) 4個のヘッドで記録再生したので、このシステムは4ヘッドVTRと呼ばれていた。
これにより記録されるビデオトラックは、90度からわずかに小さいものである。(毎秒30インチで移動するテープを横切ってトレースする高速の回転ヘッドのベクトル加法を考える)
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当初、ビデオテープはフィルム編集と同様に物理的に切り貼りすることにより編集された。これは骨の折れるプロセスで、あまり広くは行なわれなかった。まず編集するテープを、非常に細かい鉄粉を浮遊させた四塩化炭素で「塗装」する。この下作業により、磁気トラックが「現像」されたようになり顕微鏡で磁気トラックを見ることができるのだ。切り貼り作業のために設計されたスプライサという機材でテープの切るべき位置の見極めを行う。トラックは奇数フィールドと偶数フィールドを乱すことなしに垂直ブランキング区間で切らなければならない。さらに、ビデオトラックと同じ角度で切らなければならない。
また、映像と音声の読み込み位置が数インチ離れているので、映像・音声両方において正しい位置で物理的編集をすることは不可能であった。カットは、映像のためになされた。そして、それから一部の音声を正しい関係にコピーする。(磁気録音帯のある16mmや8mmのフィルム編集をするときと同様である。)
物理的切り貼り編集の欠点は多かった。ビデオテープが高価な時代にあって、編集後のテープの再利用ができない。テープを切り貼りするときに正確さとスキルを要し、うまくいかないと編集点で映像が乱れたり、テープ走行中に切れてしまったりする。そして編集ごとに数分かかった。
この方法を広範囲に利用した最初のそしておそらく唯一のテレビ番組はRowan_&_Martin's_Laugh-Inである。
・電子編集時代へ
10年以上の間、コンピュータ制御の4ヘッドVTR編集システムは、テレビ番組用として標準的なポストプロダクション機材であった。2インチテープは巻き込むことがあり、高価なハードウェアであり、セットアップに時間がかかり、編集ごとに長いロールバックを要し、ビデオに不愉快な「バンディング」と呼ばれるミスアラインメントを生じる。特筆すべきこととしては、2インチテープが他のどんな小さなフォーマットのアナログ・テープよりもよい帯域幅を持っている点である。このシステムを適切に扱えば、生カメラと判別不能な絵を出すことができた。
・発展期
ヘリカルスキャン方式VTRが標準になった時、物理的にテープをカットすることはもはや可能ではなかった。この頃、ビデオ編集は2台のVTRを使い、1台のVTRを素材出しにして、もう片方のVTRを受け手にして希望する部分をコピーする作業となった。
2台のVTRとコントローラによりリニア編集の大半の作業は簡単になった。多くのVTRは二台目のVTRをリモートコントロールする機能を持ち、それにより外部編集装置を省くことができる。
この作業は実に「リニア」(線形)と言える。全てのショットを最終的な編集状態の順番どおりに並べるのに「tape to tape」コピーを必要とするという性質は、ノン・リニアというより、リニアそのものである。一旦ショットをテープに記録してしまったら、すでにそこにあるものを上書きすることなく、それより前の部分にインサートすることができない。後ろの部分を繋ぎなおす必要に迫られる。もう1つのテープの上へ編集された内容をコピーし、やり繰って、必要な素材をインサートすることもできるのですが、コピーを繰り返して世代を経ると画像劣化をもたらすので、これは望ましくない。(アナログ時代なのでどんどん映像信号が鈍っていく)
初期のビデオ編集技術の1つの欠点は、エグゼクティブプロデューサーの試写のためにラフ・カット(荒編集時にたくさんのパターンを作成すること)が非実用的だったということである。エグゼクティブプロデューサーが最終的な絵作りに至る判断項目の吟味に、決して最初からわかっているわけではないので、尺調整やカット差し替えなどの試行錯誤や手直しについて、作業自体は簡単に出来ても、意見を表明する機会が少なからず奪われることになった。このように、特にドキュメント番組の中で、非常に長い間ビデオ編集というものは抵抗された。(我慢がいるものであった)
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1970年代後半にコンピュータ制御の編集機が開発されたとき、ビデオ編集はその完全な可能性に達した。そして、それは複数のVTRと周辺機器を同期させるためにtimecodeを用いてEDLに基づく編集をまとめあげることができた。最も人気のあって広く使われている編集機は、ソニー、アンペックスと尊敬に値するCMXから登場した。これらのようなシステムは、高価であり(特にVTR、プロダクションスイッチャー、文字発生装置、DVEのような周辺機材を含めると)、通常ハイエンドのポストプロダクションに限られていた。
・現在
コンピュータを使ったノンリニア編集が、テレビコマーシャル、映画、企業用あるいは一般消費者のビデオ製作に広く使われるようになった。一方で、ニュース番組素材編集では従来のリニア機材がごく普通に使われているし、媒体によってはノンリニアの新規機材による機材更新は行わないところもある。ノンリニアへの取り込みの時間と作業時間の兼ね合いで、手っ取り早さでリニア編集室に利点がある場合があるからだ。リニア編集機材にノンリニア機材、ディスクレコーダなどをぶら下げてリニアとノンリニアのハイブリッド化、いいとこどりを目指す編集室も現われている。