3.その他の適用例
3.1 CAD

 CAD(computer aided design)は、コンピュータ支援設計とも呼ばれ、コンピュータを用いて設計をすること。あるいはコンピュータによる設計支援ツールのこと(CADシステム)。人の手によって行われていた設計作業をコンピュータによって支援し、効率を高めるという目的からきた言葉である。
3D_New_Technologu_38aCADを「コンピュータを用いた製図システム」と解する場合は「Computer Assisted Drafting」、「Computer Assisted Drawing」を指し、同義として扱われることもある。
設計対象や目的によりCADD(コンピュータ支援設計と製図、computer-aided design and drafting)、CAID(コンピュータ支援工業デザイン、computer-aided industrial design)、CAAD(コンピュータ支援建築設計、computer-aided architectural design)などと区分される場合もある。
日本での定義としてはJIS B3401に記載があり、「製品の形状、その他の属性データからなるモデルを、コンピュータの内部に作成し解析・処理することによって進める設計」となっている。
3次元の作業の場合でも、数値の精密さの必要がないコンピュータゲームや映画やアニメーションなどの制作関係の事柄については「3DCG」を参照。
 
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CADによる作業工程のアニメーション  
・歴史
2次元製図システムは1960年代、アイバン・サザランド博士が開発した「Sketchpad」を原型として、アメリカ国防総省の肝いりで実用化された、航空機の設計を主たる目的とした「CADAM(キャダム)」が長くデファクトスタンダードであった。航空機の設計には膨大な量の図面が必要であり、当時軍用機の主力メーカーであったロッキードがCADAMの開発に協力したと言われる。
CADAMなど初期の製図システムは汎用機に接続され、1280×1024画素程度の表示能力を備えたエンジニアリングワークステーションを必要としたが、やがて640×480画素程度の表示能力のMS-DOSパソコンに対応した廉価な機械系、建築系CADソフトが続々と登場し、一定のマーケットを獲得することに成功した。それらのソフトはその後Windows版となり、さらに3次元処理機能などを加え現在に至っている。なおMacintoshで動作するCADソフトは、VectorWorksなど種類が少ない。これはCADソフトの開発ベンダーに、IBMなど汎用機系列が多かったことによる。
・概要
CAD自体はコンピュータを使用して設計や製図をするシステムであり、製図作業や図面作成が時間はかかるが正確に処理できること、編集が容易であること、データ化、ソフト間の互換性があること、10年程度の学習期間で技術修得が可能になる等の利点があるとされるが、大きく分けて汎用型と専用型があり、汎用型は図面を模様として細かく描くことを最大の目的とし、あらゆる図面を描くことができる。しかし、積算までは単独ではできない。専用型はある特定の分野における省力化・迅速化を目的としている。
その後、コンピュータ上のデータを下流の生産工程で有効活用するためにCAM、CATなど、逆に上流で強度や振動などを解析するためにCAEなどの技術が開発提供され、これらを EDPS/MISといった情報処理システムと統合して CIMS(computer-integrated manufacturing system)という概念に発展した。
CADによって、設計作業においては、以下のように効率化や正確さの向上がなされた。
繰り返し図形をコピーで作れるので効率的に作図可能。また、類似図面の作成が容易
コンピュータが持つデータから寸法を記入するため、単純な寸法ミスを無くせる
設計途中での寸法や面積の測定により、手計算の手間を省ける
設計したデータはプロッタに出力するので、細部まで正確な描画が可能
一方、電気系ではプリント基板のパターンを効率良く設計するためのシステムが、半導体産業では集積回路のフォトマスクを設計するためのシステムが開発された。また、電気回路の動作シミュレーションのためのシステムなどを加えて電気系CADの分野が生まれ、後に EDAという言葉が使われるようになった。
市販のCADは一般的に毎年のようにバージョンアップが存在し、その度に高額なライセンス料が発生するため、中小企業にとっては痛手でもある。仮にバージョンアップをしなかった場合、数年後のバージョンでは現在の保存形式がサポートされないなど、かなり強引な販売手法を使う企業も少なからず存在する。また、官公庁や元請けにお墨付き(指定)のCADも存在し、下請けはなかなか他のCADに変更できないなどの問題もある。
・CADの種類
各分野用に各種のCADが用意されている。
機械用CAD(メカCAD)
建築用CAD
建築設備用CAD
土木用CAD
電気用CAD(回路用CAD、基板用CAD)
半導体分野 - 半導体回路設計の分野では、単なる形状設計に留まらなくなりEDAと呼ばれることが多い。半導体の製造分野ではTCADという用語があるが、このTは技術を意味する英語「technology」で、CADというよりは他の分野におけるCAEの範囲に近い。
その他、熱解析用、電磁波解析用等の専用のCADがある。
服飾デザイン、配管、橋梁などの分野にも専用のCADがある。
・機械用CAD(メカCAD)
内部的にデータが2次元(x,y)で表現されているものを2次元CAD(2DCAD)と呼び、表示上では、立体を正面図・側面図・平面図等の平面図形として表示・操作する。内部的にデータを3次元(x,y,z)で表現するものを3次元CAD(3DCAD)と呼び、ディスプレイモニターなどの表示デバイスで陰影などを付け、3次元的に表示・操作する。内部的には2次元プラス高さ情報で表現されて、表示上3次元CADに似た表示をするものを2.5D(または2+1/2次元)と呼ぶ場合がある。
一般的な2次元グラフィックソフトウェアのデータを大別すると、主に線分要素で表示するベクトルデータ(ベクタ形式)と、ビットマップ画像で表示するラスタ形式とに分けることができる。作図ソフトとしての2次元CADでは、ごく簡易なものを除いてベクトルデータによる。ベクトルデータは、2次元では始点から終点を示す(x1, y1) (x2, y2)、3次元では(x1, y1, z1) (x2, y2, z2)のような座標値で線分要素を表現する。
2次元CADが機械製図図面の電子化の位置づけであるのに対して、3次元CADでは3次元形状をデータモデルとして正しく表現することが要求される。すなわち対象の頂点や辺、面などの連節を位相構造として表現すること、辺や面に対応する幾何要素の形状が数学的に厳密に定義されていること、その上で立体同士の和、差、積などの集合演算を実施できること、などである。このような3次元CADのデータ構造は境界表現B-reps(boundary representation)と呼ばれる。
3次元CADは、業務で用いる対象と取り扱える形状要素のタイプと価格帯により、ハイエンド、ミッドレンジなどに種類分けされる。
ハイエンドCADでは、自動車・航空機他、強い意匠性が求められる民生品の設計に用いられ、特に自動車の車体・部品はDassault Systems社のCATIA 、PTC社のPTC Creo Parametric、Siemens PLM社のNX、I-DEASの5製品でシェアを独占している。
ミッドレンジCADでは、家電製品・一般OA製品などの分野で、量産前の試作回数を減らす目的での普及がめざましく、SolidWorks社のSolidWorks、オートデスク社のInventorがシェアの大部分を確保している。また、一方で工作機械・生産設備、専用機など意匠性よりも性能・精度・開発期間が重要視される分野でのミッドレンジCADも普及期に入りつつあり、富士通(子会社のデジタルプロセス社)製のICAD/SXが国産のミッドレンジ3次元CADとして有名である。
近年、ラピッドプロトタイピングである3Dプリンタの小型・低価格が進み、ミッドレンジ3Dプリンタの普及とともに、上記のミッドレンジ3DCADソフトウェアやRobert McNeel & Associates社のRhinoceros 3Dなどの普及が製造業を中心に急速に進み、様々な用途で使われている。
ボーイング777は、史上初めて機体の全設計を3次元機械系CADによって行なったことでも知られている。
・建築用CAD
建築分野では、建物や構造物などの建築物の立体を平面図・立面図・断面図、あるいは透視図等の図面として表現し、それにより建築物を製作=施工していくことになる。技術者の専門領域に応じて、意匠、構造、設備などの図面群が存在し、それらの図面を作成するソフトウェアを建築CADと呼ぶ。図面は設計行為の成果物であるが、建築CADのレベルも製図をするだけのものから、より専門的な検討、解析、シミュレーションなどを含んだ高度なレベルまで存在することになる。
・汎用CAD
機能を建築向けに特化したものではなく、Jw_cad、VectorWorks、AutoCAD、DRA-CADなどが日本の建築分野でよく利用されている。 Jw_cadが2次元CADであるのに対し、VectorWorks、AutoCAD、DRA-CAD等は、図面を作成する機能や3次元モデルを作成するモデリング機能などが搭載されている。
導入コストの安さから手軽に利用できる反面、レイヤーや線種等の作図ルールを使用者個人、企業、あるいはプロジェクト毎で自由に決めることが出来てしまうため、後述するBIMに見られるような、建設のライフサイクルや社会資本としての図面データの一元化や再活用に対応できず、結果、全体としての効率や生産性は必ずしも向上しているとはいえない。
・BIM(Building Information Modeling)
近年BIM(Building Information Modeling)という概念が登場し、3次元モデルを建物の設計・工程・ライフサイクル全般にわたって活用する取り組みが各国で始まっている。Bentley社のBentley Architecture、オートデスク社のRevit、グラフィソフト社のArchiCADなどが代表的であり、日本の建築法規に最適化されたものとしては、福井コンピュータ社よりGLOOBEが登場している。
BIMはIFCと呼ばれるファイルフォーマットに対応し、意匠・構造・設備・積算・施工・維持管理におけるデータを包括することで、建設業界のソフトウェア・アプリケーション間のデータ共有化とその相互運用を可能にする。
国土交通省は2010年度、官庁営繕事業にBIMを試行導入し、設計・施工から維持管理に至る過程で一貫してBIMを活用し、「施設整備・保全に係る行政コストの削減、官庁施設の品質確保、及び官庁施設における顧客満足度の向上」を目指す取り組みを開始している。
・住宅専用CAD
日本の住宅や比較的低層の建物に特化したものとして、市販のメーカー建材の価格や仕様の情報までをモデル内に取り込んで設計図から構造計算、積算などまで作成する製品が存在する。 それらの多くは、予め部屋名に対し高さや仕上げの仕様を登録したデータベースと、3次元のモデルと2次元の姿図・詳細図・断面図等がパック化された建具・部品データが存在し、方眼紙を模した画面(平面図)上に部屋や建具・部品を割り付けることで、3次元でモデリングされたパースが作成される仕組みとなっている。
一方、モデリング化したものを一旦立面図や矩計図などに図面化してしまうと、設計変更等で各図面上で再編集をしても元の3次元モデルに反映しない不完全な製品も多い。これは3次元モデルから2次元の図面に変換される際にベクトルデータに分解され、元の3次元データとのリンクが切れてしまうためである。 これらの製品を使用する場合、図面ごとの「整合性」のチェックは従来のJw_cad等の2次元CADと同等の生産性(目視による確認)に落ちることになる。 2010年現在、この問題を回避できる「3次元モデルと2次元データの相互連動」に対応しているのは、福井コンピュータ社のARCHITREND Z、スーパーソフトウェア社の「SuperSoft」IIがある。
・建築設備用CAD
一般的に、建築用CADとは意匠設計図を作成するためのCADを指すが、建築設備という専門分野に特化した専用CADも多々存在する。基本機能としては部材記号や配管・配線を表示する線種が標準登録されており、配置・ルートの変更などを容易に行なうことができるなど、さまざまな機能を有している。国内で圧倒的シェアを誇るCADWe'll CAPE、後継バージョンのCADWe'll Tfas(株式会社ダイテック)が有名である。他にはCADEWA Evolution / CRAFT-CAD(株式会社四電工)、Rebro(株式会社NYKシステムズ)、DesignDraft(株式会社シスプロ)、FILDER_PLUS / FILDER Rise(ダイキン工業株式会社)、BrainGear(株式会社ジオプラン)、EQ-II(株式会社マイティネット)、POWERSP(株式会社コモダ工業)、 CustomARCH / i/Draft(株式会社ライトプランニング)、SD-7などもある。作図する図面種類によりシェアが異なり、空調・給排水(衛生)、電気設備の施工図では上述のCADWe'll CAPE/Tfas、設計図ではAutoCADが主流となっている。また、2009年前後よりBIM (Building information modeling) に注目が集まり、建築用CAD(意匠、構造)に加え、設備用CADにもBIMへの対応が求められている。