CMS理論-055
4. 見えモデルと色順応
4.1 見えモデル
a.色の見えモデルの必要性
・観察環境変化への追従の問題
−同じモニタでも違って見える。
(上図参照)
・心理的影響
◆ 人間の生理的・心理的特性によって色の見え方は影響を受ける。1つの色の知覚は、直前の色の知覚、周囲の色の知覚の影響なども受ける。
◆ 訓練や色を観察する方法を工夫することによって、心理的・生理的要素の影響を小さくすることが可能である。
◆ 生理的・心理的影響の代表的なものに色対比、同化効果、色順応、残像がある。
◆知覚は脳が視覚情報を積分/補正した結果起こるものなので、計測の値と異なる場合がある。
b.色順応式の概念
・色順応の提案モデル
印刷物の色は、光源など観察環境により変化してしまう。そこで、近年のカラーマネジメントシステムでは、環境光の違いを考慮したカラーマッチング技術も開発されている。
カラーアピアランスモデル(Color Appearance Model)は、観察環境光の特性によって、各環境における「見え」を一致させる。すなわち、環境光による色順応モデルを用い、視覚系のLMS錐体の応答特性にゲインを導入することにより環境光を考慮した色再現を実現する。
・視覚系の順応
視覚系に限らず、人間の感覚系は新しい環境に適応するためにその感度を変化させる機能がある。これを順応と呼ぶ。視覚の場合、たとえば、上映中の映画館に入った瞬間は館内が真っ暗で何も見えないのに、しばらく経って目が慣れてから辺りを見回すとよく見える、という現象がある。この場合、視覚系が暗順応することによって光に対する感度が高くなり、より少ない光でも感知できるようになるため、暗がりでも物体が見えるようになる。同様の感度変化が色に対しても生じる。これを色順応と呼ぶ。例えば、白熱電球の照明光の部屋を、フラッシュを使わずに昼光用フィルムで撮影すると、全体がオレンジがかって写る(下図左)。しかし、実際にその部屋にいる時には、部屋全体がこのような色をしているようには感じず、あたかも昼光色の照明光で照明したときのような色を感じるはずである(下図右)。これは視覚メカニズムが照明光の色に対して順応するためである。
・ 色順応メカニズム
人間の目には、網膜があり、その網膜には光を受容する二種類の細胞がある。
桿体(桿状体、杆体または杆状体ともいう)と錘体(錘状体ともいう)である。
桿体は、光の明暗のみを知覚する細胞で、いうならばモノトーン(白、グレー、黒)信号のみを受光する。錘体は、色を知覚する細胞で、色の三原色である赤R、緑G、青Bの光それぞれを受光する。三種類あるということである。
そして、人間の視覚には、しばらくの間、ちょっとした時間だけでもであるが、受光した光信号を”抑制”しようとする働きが起こるのである。
明るすぎる白色は暗いグレーまで抑制したり、彩度の高い鮮やか過ぎる派手な色は地味なグレーの方向へ抑制したりする。これが視覚の順応である。その中で鮮やかな色を地味な色へ抑制するのが「色順応」である。
このように視覚系の感度が変化すると、なぜ昼光色で照明された時の色に近づくのであろうか?これに関してvon Kries (1905) は、簡単なモデルを提案した。
人間の網膜の3種類の光受容器(錐体)のそれぞれが、照明光に対して生ずる応答に逆比例するゲイン制御をしていると仮定すると、3種類の錐体の出力のバランスはほぼ一定に近い状態に保たれる。
その後、このような単純なゲイン制御だけではなく、視覚系の非線形性を考慮した様々なモデルが考案され、提案されている(MacAdam; Y.Nayatani et.al.; R.W.G.Hunt et.al.)。このように、照明光への色順応は、照明光の変化をキャンセルするように作用することが知られている。
・不完全色順応
最近、視覚系の順応は照明光の変化を 100 % キャンセルできるメカニズムではないことが指摘されている(M.D.Fairchild; I.Kuriki ら)。これを不完全色順応と呼ぶ。
視覚系の感度変化(=順応)が不完全であるということは、照明光に目が十分に順応しても、必ずしも全ての物が昼白色の照明光で照らされた時と同じ色には見えない、ということである。つまり、色順応だけではわずかながら色の見えに違いが残る、ということを意味している。従って、順応だけでは色恒常性が説明できない、というのが現在の認識である。
・明順応と暗順応
光に対する目の反応のことを順応といい、暗いところから、明るい場所に出たときに視覚が順応することを明順応、明から暗への順応を暗順応という。
明順応には約1分、暗順応には約30分かかる。
4. 見えモデルと色順応
4.1 見えモデル
a.色の見えモデルの必要性
・観察環境変化への追従の問題
−同じモニタでも違って見える。
(上図参照)
・心理的影響
◆ 人間の生理的・心理的特性によって色の見え方は影響を受ける。1つの色の知覚は、直前の色の知覚、周囲の色の知覚の影響なども受ける。
◆ 訓練や色を観察する方法を工夫することによって、心理的・生理的要素の影響を小さくすることが可能である。
◆ 生理的・心理的影響の代表的なものに色対比、同化効果、色順応、残像がある。
◆知覚は脳が視覚情報を積分/補正した結果起こるものなので、計測の値と異なる場合がある。
b.色順応式の概念
・色順応の提案モデル
印刷物の色は、光源など観察環境により変化してしまう。そこで、近年のカラーマネジメントシステムでは、環境光の違いを考慮したカラーマッチング技術も開発されている。
カラーアピアランスモデル(Color Appearance Model)は、観察環境光の特性によって、各環境における「見え」を一致させる。すなわち、環境光による色順応モデルを用い、視覚系のLMS錐体の応答特性にゲインを導入することにより環境光を考慮した色再現を実現する。
・視覚系の順応
視覚系に限らず、人間の感覚系は新しい環境に適応するためにその感度を変化させる機能がある。これを順応と呼ぶ。視覚の場合、たとえば、上映中の映画館に入った瞬間は館内が真っ暗で何も見えないのに、しばらく経って目が慣れてから辺りを見回すとよく見える、という現象がある。この場合、視覚系が暗順応することによって光に対する感度が高くなり、より少ない光でも感知できるようになるため、暗がりでも物体が見えるようになる。同様の感度変化が色に対しても生じる。これを色順応と呼ぶ。例えば、白熱電球の照明光の部屋を、フラッシュを使わずに昼光用フィルムで撮影すると、全体がオレンジがかって写る(下図左)。しかし、実際にその部屋にいる時には、部屋全体がこのような色をしているようには感じず、あたかも昼光色の照明光で照明したときのような色を感じるはずである(下図右)。これは視覚メカニズムが照明光の色に対して順応するためである。
・ 色順応メカニズム
人間の目には、網膜があり、その網膜には光を受容する二種類の細胞がある。
桿体(桿状体、杆体または杆状体ともいう)と錘体(錘状体ともいう)である。
桿体は、光の明暗のみを知覚する細胞で、いうならばモノトーン(白、グレー、黒)信号のみを受光する。錘体は、色を知覚する細胞で、色の三原色である赤R、緑G、青Bの光それぞれを受光する。三種類あるということである。
そして、人間の視覚には、しばらくの間、ちょっとした時間だけでもであるが、受光した光信号を”抑制”しようとする働きが起こるのである。
明るすぎる白色は暗いグレーまで抑制したり、彩度の高い鮮やか過ぎる派手な色は地味なグレーの方向へ抑制したりする。これが視覚の順応である。その中で鮮やかな色を地味な色へ抑制するのが「色順応」である。
このように視覚系の感度が変化すると、なぜ昼光色で照明された時の色に近づくのであろうか?これに関してvon Kries (1905) は、簡単なモデルを提案した。
人間の網膜の3種類の光受容器(錐体)のそれぞれが、照明光に対して生ずる応答に逆比例するゲイン制御をしていると仮定すると、3種類の錐体の出力のバランスはほぼ一定に近い状態に保たれる。
その後、このような単純なゲイン制御だけではなく、視覚系の非線形性を考慮した様々なモデルが考案され、提案されている(MacAdam; Y.Nayatani et.al.; R.W.G.Hunt et.al.)。このように、照明光への色順応は、照明光の変化をキャンセルするように作用することが知られている。
・不完全色順応
最近、視覚系の順応は照明光の変化を 100 % キャンセルできるメカニズムではないことが指摘されている(M.D.Fairchild; I.Kuriki ら)。これを不完全色順応と呼ぶ。
視覚系の感度変化(=順応)が不完全であるということは、照明光に目が十分に順応しても、必ずしも全ての物が昼白色の照明光で照らされた時と同じ色には見えない、ということである。つまり、色順応だけではわずかながら色の見えに違いが残る、ということを意味している。従って、順応だけでは色恒常性が説明できない、というのが現在の認識である。
・明順応と暗順応
光に対する目の反応のことを順応といい、暗いところから、明るい場所に出たときに視覚が順応することを明順応、明から暗への順応を暗順応という。
明順応には約1分、暗順応には約30分かかる。